「先物取引」と聞くと、複雑で危険なものという印象を持つかもしれません。実際、仕組みを知らずに手を出してよい取引ではありません。しかし、その仕組み自体は「将来の値段を今日決める約束」というシンプルな考え方の積み重ねでできています。
この章では、先物取引を構成する最も基本的な部品 — 約束(契約)・差金決済・証拠金・清算機関 — を、株式の現物取引と対比しながら一つずつ理解します。まずはこの章の用語カードに目を通してから読み始めてください。
- 先物契約
- 将来の決められた日に、あらかじめ決めた価格で売買することを約束する契約です。
- 原資産(げんしさん)
- 先物取引の対象となる商品や指標のこと。日経225先物では「日経平均株価」がこれにあたります。
- 買建て・売建て
- 買いから取引を始めることを「買建て」、売りから始めることを「売建て」と呼びます。
- 差金決済(さきんけっさい)
- 現物の受け渡しをせず、売値と買値の差額だけを現金でやり取りする決済方法です。
- 証拠金(しょうこきん)
- 取引の担保として差し入れるお金のこと。取引金額の全額ではなく、その一部を預けて取引します。
- 建玉(たてぎょく)
- まだ決済していない契約(ポジション)のことです。
先物取引とは — 「将来の値段を、今日決める」約束
先物取引の定義から始めます。松井証券の解説では、次のように説明されています。
特定の商品(原資産)を、将来の決められた日に、あらかじめ決められた価格で受渡すことを売手と買手の間で約束(契約)する取引です。
ポイントは「値段を決めるのは今日、決済するのは将来」という時間のずれです。たとえば「日経平均を 30,000 円で買う」という契約を今日結ぶと、その後に日経平均が上がっても下がっても、あなたの買値は 30,000 円のまま固定されます。満期までに価格が上がれば得をし、下がれば損をする — この差額のやり取りが先物取引の正体です。
日経225先物の原資産は「日経平均株価」です。株式のように会社の一部を保有するのではなく、指数の値動きそのものを売買の対象にします。
出典: 松井証券「先物取引 概要・魅力」
買いから入る・売りから入る
株式の現物取引は「買ってから売る」の一方通行ですが、先物取引は逆の順番でも取引できます。つまり「先に売って、あとから買い戻す」ことができます。
先物取引は、信用取引と同じように「買ってから売る」だけではなく「売ってから買戻す」こともできます。
「持っていないものを売る」というのは不思議に聞こえますが、先物は差金決済(次の節で説明します)なので、モノの受け渡しを考える必要がありません。「30,000 円で売る約束」をしてから 29,500 円で買い戻せば、差額の 500 円分が利益になります。相場が下がる局面でも利益を狙えるのはこのためです。
同じことは株式の信用取引(空売り)でもできますが、先物には金利・貸株料・逆日歩といったコストが発生しないという違いがあります。
出典: 松井証券「先物取引 概要・魅力」
現物株との違い — 差金決済という考え方
先物取引では、満期が来ても日経平均株価という「モノ」を受け取るわけではありません。決済はすべて、約束した価格と決済時の価格の差額だけをやり取りする「差金決済」で行われます。
また決済の方法は、価格の差額分を受渡しする差金決済でおこなわれます。
全額の受け渡しが発生しないため、取引金額の全額を用意する必要がありません。現物株式との主な違いを表にまとめます。
| 観点 | 先物取引(日経225) | 現物株式 |
|---|---|---|
| 期限 | あり(限月ごとに満期がある。詳細は第 2 章) | なし(好きなだけ保有できる) |
| 必要資金 | 証拠金(取引金額の一部)を担保として差し入れる | 原則、購入代金の全額 |
| 売りから入る | できる(金利・貸株料などのコストなし) | できない(信用取引なら可能だがコストが発生) |
先物には「限月(げんげつ)」という期限があり、各限月の満期日(SQ 日)はその月の第 2 金曜日です。期限と決済の詳しい仕組みは第 2 章と第 5 章で扱います。
出典: 松井証券「先物取引の取引単位・限月」 / 松井証券「先物取引 概要・魅力」
証拠金とレバレッジ — 少ない資金で大きな取引
先物取引では、取引金額の全額ではなく「証拠金」という担保を差し入れて取引します。これにより、手元資金より大きな金額の取引ができます。この倍率の効果をレバレッジ(てこ)と呼びます。
先物取引は少ない資金(証拠金)で大きな金額の取引ができます。
松井証券の解説の例では、日経225先物のレバレッジは売建てで約 19 倍、買建てで約 17 倍とされています(倍率は証拠金の額と価格水準によって変わります)。信用取引のレバレッジが約 3.3 倍であることと比べると、先物の資金効率の高さが分かります。
なお、証拠金には現金のほか株式などの有価証券も使えますが、松井証券では必要証拠金のうち 50% 以上は現金である必要があります(ルールは証券会社ごとに異なります)。
出典: 松井証券「先物取引 概要・魅力」
取引を支える仕組み — 取引所と清算機関
日経225先物は大阪取引所(日本取引所グループ)に上場され、不特定多数の参加者の間で売買されます。ここで生まれるのが「取引の相手方が約束を守ってくれなかったらどうするのか」という疑問です。
この心配を解消するのが清算機関である日本証券クリアリング機構(JSCC)です。
当社は、大阪取引所、東京商品取引所及び堂島取引所で成立した以下の先物・オプション取引について、債務引受の対象としています。
「債務引受」とは、成立した取引の決済義務を JSCC が引き受け、売り手にとっても買い手にとっても JSCC 自身が決済の相手方になる、という仕組みです。あなたは見知らぬ相手の支払い能力を心配する必要がなく、市場全体の決済が清算機関によって保証されます。
先物市場は誰が使っているのか — ヘッジ・投機・裁定
先物市場の参加者は、目的の違いから大きく 3 つに分けられます。大阪取引所の投資教育サイト「北浜投資塾」の解説に沿って紹介します。
- ヘッジ(リスク回避): 保有している資産の値下がりに備える使い方です。株式相場の下落が予想されるときに先物を売っておく「売りヘッジ」、将来の株式取得を予定していて上昇が予想されるときの「買いヘッジ」があります。
先物取引を利用することで、保有している金融資産が価格変動により被る損失を回避(ヘッジ)することができます
- スペキュレーション(投機): 相場の動きを予想してポジションを取り、予想どおりに動いたら反対売買で利益を確定する、最も基本的な売買手法です。
スペキュレーションを行う投資家は、多様な投資判断で参加していることで、市場における価格発見機能を向上させたり、リスクを取り投資をしていることで、リスクヘッジを行おうとする投資家のリスクの移転先となるなど、重要な役割を果たしています。
- 裁定取引(アービトラージ): 値動きの相関が高い商品間で、割高なものを売り割安なものを買い、価格差が適正な水準に戻ったら反対売買して利益を確定する取引です。裁定取引が活発に行われることで、原資産と先物の価格の歪みが是正され、市場に流動性が供給されます。
個人投資家の売買の多くはスペキュレーションにあたりますが、ヘッジしたい人のリスクを投機家が引き受け、裁定取引が価格の歪みを直す — この 3 者がそろうことで市場が機能しています。
理解度チェック
差金決済とはどのような仕組みですか?
現物の受け渡しをせず、約束した価格と決済時の価格の「差額分」だけを現金でやり取りする仕組みです。日経225先物の決済はすべて差金決済で行われます。
売りから入れる(売建て)ことは、なぜ有用なのですか?
相場が下がる局面でも利益を狙えるためです。また、信用取引の空売りと違って金利・貸株料・逆日歩といったコストが発生しません。
清算機関(JSCC)は何をしてくれるのですか?
大阪取引所などで成立した先物・オプション取引の「債務引受」を行い、売り手・買い手それぞれの決済の相手方となって決済の履行を保証します。取引相手の信用リスクを心配せずに済むのはこの仕組みのおかげです。